月経困難症とは
月経困難症は、月経のある女性の3~7割に認められるといわれ、「薬は体に悪い」という誤解からじっと我慢している方も多いと思われます。しかし、最近の研究により、強い痛みを我慢し続けると、疼痛を感じる神経細胞の状態に変化が起こり、痛み自体が慢性化して治りにくくなることがわかりつつあります。また、月経困難症の半分近くには子宮内膜症などの器質的疾患が認められ、放置すれば進行して不妊症になる危険もあります。 また、もし、月経痛で2~3日間仕事や生活に不自由が生じていたら、一年間でおよそ35日、一月以上がむなしく過ごされていることになります。これは、自分にとっても社会にとっても大きな損失ですね。 当院では、月経困難症の程度を詳しくお聞きし、どのくらい、生活に支障があるのかを評価します。次に内診や超音波検査、血液検査などで、子宮内膜症や子宮筋腫、ポリープ、その他婦人科的な病気がないかどうかを調べます。手術が必要な場合を除外し、薬で治療するなら、どんなものが一番合っているのかを検討して処方しています。
新しい月経困難症治療法について
月経困難症を乗り越えよう!器質性月経困難症や、新しい治療薬について
月経困難症に対して、低容量ピルが有効であることは、多くの方がお聞きになったことがあるでしょう。月経困難症治療として保険で処方される薬を日本ではLEPと呼んでいます。
現在、日本で使えるLEPについて以下にご紹介します。ただ、ピルは身体の状況や生活習慣によっては服用できないことがあります。そういう方たちにも使っていただける治療薬もご紹介したいと思います。
また、LEPは機能性月経困難症にも器質性月経困難症にも適応がありますが、最近、子宮筋腫や子宮腺筋症などによる器質性月経困難症に対する新しい治療薬も出てきて、治療の幅が広がりました。当院でも患者さんの状況にあわせて薬剤を選択しています。
月経困難症治療ピル(LEP)一覧
先発品 | 後発品 | 実薬服用期間 | エチニルエストラシオール/錠 | 含有P/錠 |
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ルナベルLD | フリウェルLD | 21日 (休薬7日間) |
0.035mg | ノルエチステロン 1mg |
ルナベルULD | フリウェルULD | 21日 (休薬7日間) |
0.02mg | ノルエチステロン 1mg |
ヤーズ配合錠 | – | 24日服用 (偽薬4日間) |
0.02mg | ドロスピレノン 3mg |
ヤーズフレックス | – | 最長120日 (休薬4日間) |
0.02mg | ドロスピレノン 3mg |
ジェミーナ28 | ||||
ジェミーナ21 |
ルナベル、フリウェルは、21日間飲んで7日間休薬します。出血する日が決まっているほうが都合のよい方に向いています。
ヤーズフレックスとジェミーナは長期間連続投与により、月経の回数そのものを減らす事ができる薬です。ただし、出血するタイミングは人によっては不規則になることがあります。
現代女性は月経が多すぎる?
月経は月に一回は来ないといけないものと思っていませんか?実は、そんなことはないのです。もしも、薬を使わない自然な状態が望ましいというのであれば、初潮を迎えて妊娠可能になったら、避妊せずに次々と妊娠出産をすることが一番自然な状態です。
実際、明治時代には、女性はそうやって5人も10人も子どもを産んでいました。その当時は月経困難症などもほとんど無かったと考えられます。なぜなら、妊娠出産の連続で無月経期間が長く、一生の間に経験する月経数が現代女性より遙かに少なかったからです。
現代女性こそ、妊娠出産回数が不自然に減って月経回数が増えたために、月経困難症を被るようになったと考えられます。かといって、現代社会において、10代から何人も子どもを産み続けるというのは、現実には考えにくい状況でしょう。
上記のヤーズフレックスおよびジェミーナ配合錠は、連続服用により、出血のない期間を延長し、月経回数が減らすことが可能です。それにより、痛みはもとより、月経前症候群の煩わしさも、生理用品を準備する手間もグンと省けるのです。年に数回しか月経が来なかったら、その分、勉強も仕事もどんなにはかどるでしょうか。
もちろん、服用中の不正出血も珍しいことではないので、服用には専門の医師による適切な服用指導が必要です。心配なことが起きたらいつでも相談できる主治医と二人三脚で快適な生活を手に入れてください。
ピルではない月経困難症治療薬-「ディナゲスト錠0.5㎎」「ミレーナ52㎎」
LEPは、月経困難症に対して第一選択といえますが、状況によっては服用できない方もいらっしゃいます。乳がんや子宮体がんに罹患された方、血栓症の既往のある方などはもちろんですが、女性に多い偏頭痛も、前兆を伴う場合は服用できません。また、喫煙、40歳以上、肥満症、高血圧なども望ましくない状況です。
これらは、多くはピルによる血栓症のリスクによるものですが、血栓症は実は、ピルの成分のエストロゲンによって引き起こされます。したがって、エストロゲンが含まれない黄体ホルモン単独の薬であれば、このような状況の方でも服用が可能になるのです。
ディナゲスト錠1.0㎎は、そういった黄体ホルモンの一種で子宮内膜症と子宮腺筋症の治療薬ですが、2020年に有効成分が半分になったディナゲスト錠0.5mgが発売され、月経困難症の治療薬として使われるようになりました。
ディナゲスト錠1.0㎎は月経による腹痛や骨盤痛の抑制効果がLEPよりも高く、子宮内膜症や子宮腺筋症の方で、LEPでは痛みを抑えきれない方には大変有効なお薬です。しかし、従来は、内膜症や腺筋症のある方にしか処方できませんでした。
ディナゲスト錠0.5mgはそういう疾患がなくても処方できますので、LEPが無効な方ばかりでなく、40歳以上の方、喫煙者、片頭痛のある方にも服用が可能です。 また、子宮内黄体ホルモン放出システム「ミレーナ52㎎」は子宮内に挿入された本体から持続的に黄体ホルモン(レボノルゲストレル)が放出され、子宮内膜が薄くなることにより、月経量や月経痛が軽減します。子宮局所にのみ作用する黄体ホルモンなので、全身への影響はほとんどなく、血栓症の心配もありません。従って、ディナゲスト錠0.5㎎と同様、LEPを服用できない方に適しています。特に出産経験のある方で、もう妊娠を考えていない方には最適ではないかと思われます。
経口の子宮筋腫治療薬 「レルミナ錠40㎎」
月経困難症で診察を受けたら子宮筋腫が見つかった、という方には、「レルミナ錠40㎎」は新しい選択肢です。
子宮筋腫はいったんできてしまったら、消えることはありません。筋腫が小さくて過多月経や月経困難症がなければ経過観察でよいのですが、症状が出てきたときには、手術をするのか薬で経過を見ていくのか選ぶことになります。手術をしたくない場合、または手術するにも少しでも子宮を小さくしてからにしたい場合などに従来使われてきたお薬は、注射か点鼻薬で、効果が出る前に一時的な症状悪化がみられることが多く、また、更年期障害に似た副作用がつらいという欠点がありました。
2019年9月に発売されたレルミナは、1日1回服用の経口薬であること、効果がすぐに現れて、一時的な症状悪化がみられないことが最大の特徴です。残念ながら、更年期障害様の副作用は同様に出てしまいますが、手術に踏み切れず時間稼ぎをしたい時など、とりあえず開始すれば楽になるので、6か月以内の投与期間の間にこれからの対処法をゆっくり考えることができます。40歳以上でLEPは飲みたくない、でも、すぐに手術は躊躇する、という場合などは服用を検討しても良いケースと思われます。
以上、現在、月経困難症に有効なお薬についてまとめました。ただ、その方の症状、状態により、適用できる薬は異なってきます。主治医の診断により何が最適な治療法となるのかよく聞いて判断を仰いでください。当院では、患者さん一人一人に合わせて最適な選択肢は何かを一緒に考えていきます。毎月の痛みや出血に悩んでいる方、治療法を迷っている方は一度ご相談ください。